1970年、4チャンネル・ステレオは実用化に進んでいた。再生形態は2ー2方式と
国際基準になった。つまり、前面2個、後方に2個という常識的考え方だ。なかにはへ
そ曲がりがいて、いや、4ー0だとか、3ー1だとか言っていたのだが、作り手側から
すれば、方式を決めてもらったほうが都合がよいというものだ。が、はっきり言ってス
ピーカーの置き方はどうでもよいことだった。完全な独立したトラックを持ったテープ
ならともかく、LPレコードでは事情が違う、それ以前の問題をかかえていた。
マトリックス4チャンネル・ステレオ。ようするに疑似4チャンネルステレオだ。
昔のモノラル時代の音源を疑似ステレオにしたものを聴いたことあるだろうか。ステレ
オ初期の頃沢山出ていた。これを聴いてステレオはスバラシイと言った人はいなかった。
折角の名盤を台無しにしてしまった。多くの音楽ファンは「金返せ」とデモ行進をした
くらいだ・・・ウソです。
マトリックス4チャンネル・ステレオは鳴り物入りで登場した。その方式は、SQ方式
に始まり、QS方式、シャイバー方式などと相次いで発表された。レコードメーカーは
規格が統一されないままバラバラな方式でエンコードしたLPレコードを出し始めた。
結局どの方式も基本的考えは同じながら互換性なく、普及しなかった。しなかった理由
は他にもあった。
4チャンネルで聴こうとなると、デ・コーダーの他に、新たにワンセット、アンプとス
ピーカーを購入しなければならない。これだけの投資をして聴く価値があったかが問題
だ。従来のステレオにもう1組後方にスピーカーを繋いだだけでも臨場感は倍加する。
これだけでは子供だましに過ぎない。ソフトに全てがかかっている。どうヒイキメに聴
いても従来のステレオを、強引に疑似4チャンネルにしたようにしか聞こえなかった。
さらに問題だったのは「従来のステレオと完全なコンパーチビリティ」(互換性)とは、
よくこんな大ウソが言えたもんだ。4チャンネルでさえ聴けなかったものを、従来のス
テレオプレイヤーに掛けたひには、位相関係がメチャメチャになって、百倍聴けたもの
ではなかった。
わが社はテープメーカー(私のポニー時代)完全なデスクリート4チャンネル方式だ。
これは現在のハリウッド映画のディジタルサラウンドとなんら変らない。問題は4チャ
ンネルテープレコーダーが必要なことだ。
4トラックステレオミュージックテープというのがあった。6ミリテープで、7号リー
ルに巻かれていて、カセットテープのようにA B 面ひっくり返し、往復、再生する。
専用のテーププレーヤー(勿論ちゃんとした録音機)が各オーディオメーカーから売り
出されていた。このプレーヤーは2トラックステレオだから、4チャンネルステレオは
聴けない。高価な4チャンネル録音機を買うしかない。あの時代持っていた人はどのく
らいいたのだろうか。
音楽の友社の「レコード芸術」増刊号で、この4チャンネル方式の特集を組んだ。その
タイトルは「話題の4チャンネルステレオテープを作る」録音から試聴会まで、多くの
ページと写真で紹介した。
私が所属する株式会社ポニーは全面的に協力したのだった。日本フイルハーモニーオー
ケストラが毎年夏行っていた「軽井沢音楽祭」これを録音した。ディレクターは私と常
にコンビを組んでいた長谷川武久さん。