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万華鏡



密航



胎児の夢



蝶のすむ部屋

 ・ミュージックマガジン社
 ・佐井好子 HP
 ・amazon

ウィ・ヒア・ニュー・サウンズー音の向こうに(第52回)文=武田昭彦

佐井好子の歌世界を透明感溢れる
音で捉えたエンジニア伊豫部富治

70年代中盤、個性的な歌世界を聞かせていたシンガー・ソングライター佐井好子
の4作が復刻された。デビュー作『萬花鏡』(75年) はプロデューサーに大野雄二、
ミキサーに伊豫部富治が起用されたことでも知られる。
伊豫部富治といえば何より高柳昌行とニュー・デイレクションの『インデイペン
デンス』(69年) を筆頭に、勝新太郎、梶芽衣子らのアルバムで腕を奮っていたエ
ンジニアとして忘れ難い。
夢野久作らの小説に影響を受けたという佐井の音楽を大野がアレンジ面でしつか
りサポートする一方、それを透明感溢れる音で捉えたのが伊豫部に他ならない。
アナログ録音らしい奥行きの感じられる音像は、ギターやキーボードといったバ
グッキンに加え、一部で起用される琵琶や尺八といった楽器にも神経が行き届い
がているのが音として伝わってくる。
当時大学生だった彼女の感情の起伏を、オトナっぽいイメージにまとめ上げた
伊豫部の音創りは一聴の価値がある。本作は吉野金次がミキシングに携わった
浅川マキの70年代初頭のタイトルと双壁をなす、数少ない邦楽アルバムだろう。
この音の感触は残念ながらDAW (デジタル・オーディオ・ワークステーション)
の録音環境からは決して生まれてこない。
クニ河内をプロデューサーに迎えたセカンド『密航』(76年) は、タブラ、チェロ、
フルートといった楽器が加わったことで、伊豫部の音創りがよりいっそう洗練度
を増している。特に「鏡地獄」「春」における研ぎ澄まされたバッキングのなか、
鮮やかに浮かび上がる佐井のヴォーカルは何度聞いても飽きさせない魅力を持つ。
今日の邦楽からはすっかり失われてしまった情景の浮かんでくるサウンド・ワー
クが、彼女の類まれなる才能を引き出すことに成功している。決して熱くなり過
ぎないクールな音創りはここでも健在だ。彼女の手により水性色エンピツで書か
れたというジャケットも、何とも形容し難い色香を放っている。
再びプロデューサーに大野雄二が起用されたサード『胎児の夢』(77年)、山本剛
トリオを迎えた4作目『蝶のすむ部屋』(78年)まで、ミキサーはすべて伊豫部富治
が担当。
ちなみにその後、伊豫部のサウンド・ワークは80年代初頭の井上陽水の諸作にお
いて頂点を迎えることになる。以前から佐井の音楽に共感を抱いてきたJOJ0広重
らのバックアップもあり、30年ぶりに制作された、新作『タクラマカン』(Pヴァ
イン◎PCD26021) はメンバー構成もさることながら、音像が70年代の4作品と
かは明らに異なり、いかにも21世紀的なのが面白い。
あのジム・オルークが関心を寄せている彼女の音楽が、もし70年代の作品を含む
ならば、それはそれで新たな糸口が見つかりそうな気もするのだが…。


武田昭彦さんありがとうございます。35年も前の録音物がこういうかたちで取り
上げられるなんてうれしいではありませんか。そんなわけで、買って聴かないわ
けにはいきませんでした。
1999年にCD化された2枚組のパッケージは持っています。リマスターというこ
ともあって紙ジャケット4作品、アマゾンより購入しました。
改めて聴くとアラばっかり目立って決してほめられた録音ではありません。ただ
ただ未熟さ加減に心臓が痛くなるばかりです。一作ごとにミックスがうまくなっ
ている…と思ったのですが、4作目はどういう心境だったのか、実に冷や汗もの
です。
いわゆるアーティストのチカラ、楽曲のチカラ、以外の何ものでもないことは確
かで、そして見事なアレンジと演奏、録音が特別ひどいものでもないかぎり録音
も評価される。ただただ恵まれた環境にいただけだったんですね。

録音はマルチ時代に入っていたにもかかわらず、2チャン一発時代とかわらぬプ
レッシャーだった。一発録音を引きずっていた。引きずっていたからこそ、聴く
者を捕らえてはなさない緊張感あるプレーがうまれた。
歌い手にしても「1チャンネルあればいいよ」チャンル困窮をおもんばかって、
自信に満ちた歌手が多かった。70年代の音楽のパワーってこれでしょう。
一発入魂。みんなプロだったよね。

プロトゥールスが誰でも簡単に手を出すことが出来る環境をもたらしたのだが、
これって本当のことをいうとかなりヤバイことなんだ。
私はずっと前から懸念していた「スペシャリストでなくなる」 に突き進んで
いる。いや、すでになくなってきた。
プロトゥールスの機能をフルに使い倒し、それはそれはとても建設的なことなの
かもしれない。が、実は、ただキカイに振り回されているだけなんだ。そこんと
こに気付いていない。一番大事なことを見失なっていることに気付いていない。

この記事の作成中 (2010/03/30) に、町田秀夫さんという方からメールをいただ
いた。佐井好子さんの一連のアルバムと、私のことに関係する記事を書いたとい
う知らせだった。30数年の時空を超えて、偶然なのか、必然なのか、彼女の描く
世界というか、オーラみたいなのがそうさせたのか、とても不思議な感じがした。
幻聴日記 3「1220 プロの仕事について」素敵なページです。感謝。こちら


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