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音楽的『オト』について考える
--協調--

 「はだかで歩いているようでイヤだな………」プレイバックの後、開口一番
ピアニストから出た言葉だ。音がスッピン状態だといっているのだ。
ディレクターが「ドキリ」としたような顔で「リバーブが少ないということで
すか」といった。マッタク………もっとディレクターらしい言いかたがあるだ
ろうと思ったが、彼もすでにあやしい空気を感じとっていたのだろう、咄嗟に
口に出たのかもしれない。
「ポピュラーピアノのようになってしまうのでは………」と、穏やかにいって
いるのだが、頬のかたすみに一瞬なにか走るのを見てしまった。
 私はディレクターとの話を遮るように「マイクとセッティングを替えます」
といってたちあがった。ギクシャクした、いやな空気になりそうだった。話が
こじれてしまってからでは遅い。アシスタントにマイクを交換するよう指示を
した。
 こんな場合、小手先でいい加減にやってしまうのはまずい。言っている事が
無理難題と分っていても、一応は積極的なところを見せておいた方がいい。
正直なところ半分はパフォーマンスなのだが、そんな姿勢を見て「気のせい」
で「かんちがい」でもしてくれたら大いにプラスになるだろうし、駄目だった
からってマイナスになる事ではない。行動が大事で結果は関係ない。
 ようするに、ミキサーの技術とはこんな微妙なセメギアイではないかと思う
んだ。経験にもよるだろうけど、明らかに無駄な努力とわかっているときは、
自信持ってキッパリ「出来ない」ということが大事だ。よく「やってみなけれ
ばわからない」というが、そんなイメージを出来ない人間は信用できない。
 アンビエンスをたっぷり混ぜる、ということで、全体のサウンドが暑苦しく
ならないようにと選んだマイクだった。交換するマイクロフォンは同じメーカ
ーで、外見も同じだが、多分もう少しナチュラルな感じがするはずだ。私は話
のニュアンスからもう少し大きなホールなんだろうと解釈した。

 マイクロフォンを換えたことでピアノのサウンドは落ち着いた感じになった。
さらにアンビエンスのバランスを大きくしたいが、これはテスト時に確認済み。
イメージに近づくのだが、ドロンして得体のわからない音になってしまう。
 ここはあれこれ迷うことなく、先ずは、このスタジオでピアノの録音したら
「こうなる」という、もっとも自然な感じになるようバランスを決めた。
 レキシコンのディジタルリバーブの「ミディアムホール」を「ミディアムル
ーム」に変更し、新たに「プレート」を追加した。
「プレート」はEMТの鉄板エコーと、いい感じになるよう、タイムやキャラ
クターを調整しブレンドさせる。これは一台のリバーブのつもりで使用した。
 この「プレート」と「ミディアムルーム」なる化学調味料をたっぷりふりか
けることでピアニストのイメージする空間をつくった。

 プレイバックを聴いて「まだ違う気がするけど限界ですか?」といった。
一回目のプレイバックで一瞬みせた、頬の先のけわしい表情はなかった。
いたって協力的でしかも遠慮がちにさへ感じた。
「もう少しウオームな感じになるといいですね………」ドロンとした暑苦しい
感じが嫌だった、その辺を少し残した方がよいということなのか。個人的には
あまり好きになれないが、多分そんなサウンドなのだろう。
 アンビエンスのレベルを大きくする。その分リバーブ関係のサウンドキャラ
クターを少しスリムにさせてやるといいかも知れない。
 早速マルチレコーダーのバランスを修正し、リバーブのイコライザー250Hz
を低域がなだらかになるようなイメージで調整した。
この瞬時の処理を、私の2ビットに満たない脳ミソは「G4」にもマサルとも
オトラナイないスバヤサでカイテンしたのだった。
「えええ……どうしたんですか、これですよ。これをのぞんでいたんですよ」
??なんだなんだ、ほんまかいな……、私のイメージしたこととは随分違うぞ。
私は下手すると泥沼状態になるかも知れないと思っていただけに以外な結末に
驚いていた。
限界と感じて妥協なのか。もしそうだとしたら、私は協調と思いたい。録音と
いう一番大事なところを解っていたと解釈した。


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