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IYAMI

 録音のスタートの前に「サウンドチェック」という、儀式のようなプロセスが
ある。ミュージシャンが全員そろい、それぞれの位置に着いたら、一人ひとり音
を出してもらう。マイクロフォンが正しく繋がっているかどうか、まぁ、それも
ありますが、録音レベルと音質を整える。セクションで動く場合はそのセクショ
ンでのバランスもチェックする。
 殆どの場合ドラムから始める。ドラムはマクロフォンの数が多いから時間を要
する。一通りリズムが終わるとそれぞれへの楽器へと進む。編成が大きければそ
れなりの時間が必要だが、私の場合どんな大きな編成でも、ドラムのチェックを
含め15分前後。これで「セーノ」と音が出た時は、だいたいの音楽バランスはと
れている。

 私の駆け出しの頃、つまり、2チャン同録の時代にはこのサウンドチェックは
してなかった。今の時代では考えられない。
 マイクロフォンの回線チェックくらいはした。リハーサルが始まり音が出れば
現在と同じような手順でリズム隊からバランスをとっていく。次にストリングス
セクション、その他の楽器へと進む。音楽が最終コーラスに入るころにバランス
は出来上がる。早業といっていい。この時代これが当たり前だった。

 コマーシャルの世界ではこのサウンドチェックは常識だった。私はこの常識を
無視するように、レコード感覚で始めたら全くバランスが取れなくて赤恥をかい
た。ディレクターが「サウンドチェックしないの」聞いてきたのだが、えらそう
に「リハーサル初めて下さい」といった。
 平均サイズ30秒。長くて60秒。まれに90秒。一つのことに取りかかっている
間に「ジャン」と終わってしまう。いつまでたってもバランスがとれない。これ
ですサウンドチェックの必要性は。私は素直にしきたりに従いました。

 勿論レコード関係でもサウンドチェックをしている人はいたのだが、料理のレ
シピじゃあるまいに、計量カップではかるようなみっともないことが出来るか、
と意気がっていた。半人前のくせにイッチョマエなことをほざいていた。まぁ、
若かったんだね。
 映像プロダクション、代理店、クライアント、そういう人たちが揃っている場
で、最初のリハーサルから、ほぼ正しいバランスで聴かせることはいい印象を与
える。
 私はこの経験からレコードでもサウンドチェックするようになる。コマーシャ
ルの現場と同じように、ディレクター始めモニタールーム側の人たちに与える衝
撃は小さくない。大きな評価に繋がったことはいうまでもない。

 コマーシャル音楽は再生系がはっきりしていることもあって、録音の考え方が
レコードより進んでいると思った。とにかくあの限定されたテレビのスピーカー
から出てナンボのもの。いかにパワフルで美しい音が出せるか。その記録媒体は
フイルム焼き付けの光学録音。しかもモノラル。このモノラルってのがステレオ
に慣れたミキサーにはどうにもやりにくかった。こういう厳しい条件で、いかに
評価される録音が出来るかだった。
 この時代は、現在のようにヘッドフォンによる、モニターシステムはなかった。
また、音のディテールにこだわっても「セーノ」の録音では正しく生かせないと
いうこともあった。だから現在のようなサウンドチェックは大した意味のあるこ
とではなかったのだと思う。

 その頃ロスアンゼルスへ行く機会があって、この時A&Mレコードでロック系
のセッションを見学した。このときものすごいショックを受けた。なんとドラム
の音を決めるのに1時間以上も掛かっていた。チューニングがどうの、皮がどう
のと、その都度張り替えたり、楽器を交換したりしていた。日本ではこういうこ
と許されない。「オレの音になにかごふまんでも?」と、嫌みをいわれ、一喝さ
れるだけだ。この時代のミュージシャンは職人だった。頑固だった。こわかった。
 マルチ時代に入り各チャンネルの「オトの管理」という意味からサウンドチェ
ックは重要になる。


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