
 
どういうこっちゃ
どんなジャンルの音楽をもオールマイティに録音出来るスタジオは存在しない。
ましてやそこに時代の空気を取り入れようとした時には皆無だ。
具体的に「あの時代の×××××のようなサウンドにしたい」はっきりしたコンセ
プトを持って相談を受けてもいかんともしがたい。
「×××××スタジオには古いコンソールやチューブの機材が多いが……」
……うん、それも大事な事かもしれない。関係ないとは言わない。スタジオの響
きが問題で、古い機材を使えばいいってもんじゃない。情報過多なのか受け売り
の勘違いばかりだ。
少し古い話をする。そのコマーシャル音楽のスケジュールが入った翌日、宅急
便でビデオテープが届いた。
手紙が添えられていた。「ビデオのサウンドトラックと全く同じ音、同じ雰囲気
で録音してもらいたい」とあった。
早速ビデオを観る。1962年制作のフランス映画、アラン・ドロン、ジャン・
ギャバン主演「地下室のメロディ」モノクロ映像。聞き覚えのある派手なテーマ
音楽。当然モノラル。オープニングタイトルの1分半くらいの長さだった。
私はこの映画を観ている。学生の頃だった。筋は殆ど忘れたが最後のシーンで
プールの底に隠したトランクが開いて、お札がプール一面に浮いてきたのを覚え
ている。
アレンジは大野雄二さんとあった。このテープからスコアを起すんだ。すごい
音しているから採譜するのは大変だと思った。
スタジオは決まっていた。14年も前の話だから細かなことは覚えていないが、
録音に際して事前に確認しておく為の話し合いや相談事はなかった。
この手の録音って、往々にして、もしもの事を考え、今の時代の音にも戻れる
よう注文が出る。つまりあとで心変わりするかもしれないことを恐れての保険だ。
しかし、この両天秤かけるやり方は「二兎を追うものは一兎をも獲ず」になって
しまう。どちらも上手くいかない。この時その話は最初からなかった。
突然話は変わるが、こんなことがあった。バラエティ番組のエンドテーマ用に
バート・バカラックの曲をリメークした。前もって聴いてもらいたいと音楽プロ
ダクションからテープが送られてきた。オリジナル曲の録音は1960年後半だ。
「バカラックサウンド」と言われたくらいだから、音楽もさることながら、その
録音も独特なものがあった。録音は時代考証の他に、この独特なサウンドが肝で、
全てセッティングで決まる。
その時代、世界中のスタジオは余計な響きがしないように設計されていた。
どんな大編成でも「セ〜ノ」と一発録音するために、アンサンブルしやすくする
為の知恵だ。
マルチレコーダーの普及で音の「かぶり」問題がなくなってくると響くスタジ
オが多くなった。音を優先した訳だがそれはそれで別な問題をかかえた。
つべこべ言わず、その昔の録音形式で、全員同じフロアにセッティングした。
必要と思われるところに、いくつかの衝立は使用した。
ドラムのマクロフォンは上に1本とキックに1本の計2本のみ。それを見たド
ラマーの島村英二は「いいねぇ、そしたら楽器替えるね」と言った。
バッチリだった。どっちがオリジナルだか判らない。大はしゃぎしていたらディ
レクターがとんでもない事を言い出した。「今の音にもなるんですか」「なんで」
「いや………別な使用方法を考えたとき………」「それは出来ない」「どうして
ですか」いちいち説明するのも面倒だったので「話が違うじゃないか、だったら
最初からそう言ってよ」「同じ音にしろと言ったのは誰だ」
ミュージシャンは「いいんじゃない」と大喜びだった。ディレクター一人だけ、
何を思ったのかしらない、バカヤローとしかいいようがない。録音はイメージ通
りに終わったが、何かスッキリしなかった。
そういうことだったら当たり前に録ってフイルターでも繋げばいいじゃねえか。
現在は便利な器械があるぞ。「オールディーズの音にしてくれ」「ハイヨ!」
「流行りのチープサウンドにしてくれ」「ハイヨ!」ボタンをポンっと押せばい
いだけだラクチンだね。
いまの人達って、いろんな機材にコダワリを持っておきながら、最後に何にでも
マヨネーズ付けて喰うようなことよく出来るよな………。関係ないか。余計な事
だった。私はその番組を一度も見たことがない。だから音も聴いていない。話を
戻そう。
手紙には録音の編成も記してあった。ビックバンドとストリングス14人。
その他プラスアルファ。何れにしろこの編成が入るスタジオが優先される。
このサンプルを聴いて一番印象に残ったのが、エンディングに入ってフリーな
感じでボンゴが絡んで終わる。その距離感と質感が実にいい雰囲気が出ている。
この空気感を再現出来ればハッピーに終わるかもしれない。
それにしてもこの古さ加減といい、スタジオでも、ホールでもない音はどうし
たものか。今回の録音スタジオはよりによって一番ライブなスタジオだ。サンプ
ルもライブだが、いわゆる一般的なイメージのライブではない。
音が遠い感じから、これはあく迄も私の想像だが、編成の関係で、音楽スタジ
オではなく撮影用のステージで録音されたのではないだろうか。
私は二度ほど調布の日活撮影所の大ステージで録音したことがある。撮影の為
に組まれた舞台のセットでの録音だった。録音条件はいい訳がない。音はともか
くその質感は似ていると思った。
音は妙に遠くうるさい感じ。ライブだがデット(どういうこっちゃ)この矛盾
とどう立ち向かえばいいのか。出来ればスタジオを替えてほしい。それによって
問題の一つは解決出来るかもしれない。
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