今となっては結構恥ずかしいこと言ってました。その辺は削除させて頂ました。
23年前になります。この時36才「生の音に忠実」この言葉がまだ使われていた
んですね。録音の基本なんですが、今では死語になってしまったようです。
私自身のスタンスは現在も変っていません。この生き方が細々ですが今も仕事
が出来ている証しだと思っています。
ミキサーは職人です。アーチストではありません。アーチストではありません
が、精神はアーチストです。ここが大事なところですね。
こんな話を聞いたことがあります。若いミキサーでミックスダウンしていた。
作家が曲のイメージと希望をミキサーに伝えた。だが一向にそのようになる気配
がない。少し違う方向にいっている様子でもある。ジリジリ我慢していたのだが
つい手が出てしまった。自分で勝手にフェーダーにさわり動かしたんですね。
さあたいへんです。ミキサーは両手をパッと左右に拡げ通せんぼの格好をした。
そしてワメイタ「卓はミキサーの命だ勝手にさわらないで!」さらにこうもいっ
たらしい「録音はアートなんだ」とりつくしまもない。ますます意地になってし
まい自分のやり方を譲らない。作家は唖然とし、これ以上続けられないと思った
のでしょう、テープを巻き上げ持ち帰ってしまったという。
信じられない話です。このミキサー何も分かっていない。とんでもない勘違い
をしている。ミキサーのとった態度は作家に対する侮蔑的行為だった。作家のプ
ライドに傷つけてしまった。
これが対ディレクターの場合だったらどういうことになったろうか。「こりゃ
駄目だ」と判断。取り敢えずミキサーに気を使いつつ「いいんじゃないの・・・
グットだよ」とかなんとか適当なこと言っておいて早いとこ終えようとする。
これは捨てミックスです。ようするにボツです。後日、再ミックスのミキサーを
誰にしようか、日程やスタジオのことを考えているもんなのね。
この時いきなりテープ持って帰ってしまった。作家のプライド。怒り。当然です。
ミキサーも驚いたろうが、同時に自分の言動に気付き反省したのだろうか。
この話を聞いた時、テイチク会館時代の頃を想いだしましたね。あの時代一歩
スタジオに入ったらミキサーが一番偉かった。イイ録音して貰いたいと思ったら
絶対ヘソ曲げられるような発言はご法度だった。何を言っても「わかっている」
「ゴチャゴチャ言うな」あげくのはてには「オレはそういうの嫌いなんだ」と訳
もなく不機嫌になる。バランスのことを言うものなら「お前にバランスのことが
わかるのか?」嫌みだよね。
まあ、ミキサーに限らず、職人とはそうしたものだろうから、ある意味で許さ
れる部分もあると思っていた。だが、どうしても理解出来ないのは、なにゆえに
ディレクターより偉いんだ・・・と言う素朴な疑問だった。
ディレクター、映画でいえば監督ではないのか。そして仕事に入ったら、年上
も年下も関係ない。ベテランも新人も関係ない対等だと思っていた。
現在、こういうミキサー、もういなくなったと思うが・・・。いや、いるかも
しれない、利口に振る舞っているかもね。そのサジ加減も技術なんだよね。話が
横道にそれました。
多分そのミキサーは、自分のプライドを傷付けられた思ったんでしょうね。こ
れはプライドではありません。こういう場合相手にとってはただの「思い上がり」
としかうつりません。
いろいろ口だされて「うるさいな・・・」と思っていたところに手まで出てきた。
一気に爆発した。「キレタ」とでもいうのでしょうか。解らないでもでもありま
せんが若いんですね。基本的なことが何もわかっていない。自分の立場を理解し
ていない。修業が足りない証拠です。
さらに、言うにこと欠いて「ミキサーの命・・・」とは、大きく出ましたね。
よくも恥ずかしくなく口に出しました。何考えているのやら。多分、なんにも考
えていないんでしょうけど。
もっとも土台を作っている時にゴチャゴチャ屋根の話をされても迷惑なことな
のだが・・・。それならそうと順をおって説明すればよかった、イライラさせず
に済んだかもしれない。
多分、言われていることが理解出来なかったんですね。自分の体験からですが
予想もしてなかったことを突然言われても咄嗟に理解出来ないことはよくあるこ
とです。
この場合は、度々言った上で手が出たということは、何も解ってくれなかった
のか。解らなかったのか。そういうことでしょう。
大上段に振りかざした言葉に作家は「こいつ何考えているんだ」「私のプライ
ドはどうしてくれるんだ」そして「どういうつもりなんだ、思い上がりもはなは
なだしい」これは悲劇ですね。「プライド」と「思い上がり」は表裏一体でね、
とっても危険なんだ。
ミキシング技術が相乗効果となってより音楽的になったなら、誰もが「素晴ら
しい!」と絶賛し、きっと「ただものではないアーチストだ」というに違いない。
そうなんだ、第三者に言わせるんだ。第三者が認めるんだ。決して自分で口や
態度に出すことではないんだ。
あくまでも職人であることを忘れないことね。職人とは注文に答えられ、必要
に満たしうる高度な技術と感性を持っている。そういうことですね。