
自由ではない
仕事は順調に続いていた。毎年初夏になると出ていた妙な病気が出なくなった。
会社が原因だったのかも知れない。
音に関係する仕事なら何でもやる。人は「ポリシーのない」と言うが全然気に
しない。レコード、コマーシャルは勿論の事、ステージ PA、映画やテレビの
劇伴、テレビの音楽番組、教育関係のテープ作り等々、何でも面白くやる。
まわりの人は「ただの便利屋だ」利用されているだけではないかと言う。確か
にその通り、利用される為にフリーになった。頼まれると断れない性格でもある。
私もそうであったが、レコードメーカーやスタジオのハウスエンジニア達は外
で結構アルバイトしている。(こういう内職が多いことはAクラス入りのバロメ
ーターであった)しかし彼らには本業がある。そんなに自由にならない。
私はフリー。一人しかいない。〈こんにち発売されるCDの数だけいる〉いつ
どんな時でも、どんな時間でも、空いている限り早いもの勝ちで使える。
フリーとは自由であって自由ではない。全て、人の為に用意された時間だ。
勿論仕事は選べる。気に入らなければ断る事も出来る。
思うようにスケジュールがとれなくなると嫌な顔をするプロダクションも出て
くる。だからといってどうにもならない。日頃世話になっているからって特別な
計らいはしない。「媚びへつらう」こともしない。不幸にもそういうことが出来
ない不器用な性格である。先に入った仕事を断ってまで受けることは犯罪だ。
必要以上にナレナレしくしない。だからと言ってヨソヨソしくもない。この仕
事が「最初で最後かも知れない」と思って取り組む。一度きりで終わりたくない
から必死だ。崖っぷちに立ち命がけで仕事している。気に入ってくれなければ二
度と電話は掛からない。これの繰り返しだ。
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