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解らない!

 二年ほど前、あるオーディオ専門店の試聴会に行った。およそ一般大衆には縁
のない高級機器ばかり揃えられていて、その中から『究極』といわれる組み合わ
せで聴かせていた。リファレンス用のCDもクラシックからジャズ迄、それなり
のものが用意され試聴させていた。
 装置は値段が値段ですから、音を聴くまでもなくイイに決っている。しかし、
いろいろなジャンルを聴いているうちに、一種の職業病なのだろうスピーカーの
向こう側がだんだん気になってくる。
 リファレンス用に揃えたにしては「録音がよくない」と思いながら聴いていた。
係員が本日の試聴会の終わりに相応しい『極め付け』を聴いてもらって終わりに
したい、と言って掛かったのが30年ほどまえの、ビックバンドジャズのCDだ
った。これには私の耳は大混乱になってしまい途中で出てしまった。

 曲を掛けかえるたびに、各パーツがどれだけ優れているか、パンフレットの能
書きを丸暗記したような説明をしていた。そういう講釈を聞けば聞くほど出てく
る音にギャップを感じていた。一般世間の耳の標準ってどうなっているのだろう。
音の規準ってどこにあるのだろう・・・、等と今さらなことを考えていたところ
に掛かった。
 このCDは私も大好きで、当時買ったアナログ盤を持っている。確かに録音は
評価されオーディオマニアに評判だった。でも、いま聴くと時代を感じる。だか
らといって、録音がイイとかワルイとかいうつもりはない。あの装置のリファレ
ンス用として適切とは思えなかった。

 究極の試聴会だというのにどういうつもりなんだ、静かなティルームでぼんや
り考えていた。いつの時代でもオーディオ用のリファレンス用というとジャズが
多いけれども、何故あのCDを掛けたのだろう・・・。
 ビックバンドサウンドを聴いてもらいたいんだったら他にもあったと思うのだ
が・・・。あの係の人は装置に関係なく、個人的に好きなCDを掛けただけなん
だ。じゃ・・・、あの装置はいったいなんなんだ。そんなことを考えていたら、
何故かホッとするものを感じ、一人ニヤツイテいた。

 今年4月、そんな試聴会のことを思い起こさせる事件があった。事件とは大げ
さなんですが、私の「DVDオーディオは普及しない」を読んだあるオーディオ
メーカーのDVD担当者からメールを頂いた。
 「普及しないとは耳の痛い発言・・」よかったら会って話を聞かせて頂きたい。
いや・・・まいったね・・。本気のようだ。イイカゲンなことを書いたばっかり
に・・・。でも私の知らない人でもないので会いに行きました。

 設備の整った広い試聴室へ案内された。ここでいろいろな形にミックスされた
DVDオーディオを聴かせてもらいました。海外のレコードメーカーと協力して
制作したミックスなども含まれていました。
 チャンネルの振り分けかた。拡がりかた。定位のさせかた。サブウーファー用
のチャンネルを使用するかしないか、いろんな形のミックスを聴かせてもらった。
 しかし・・・、どれもが実験の域を出ていない。手探り状態でミックスしてい
る。早い話がどれも不自然。素直に音楽を聴くまえに、妙な「オト」を意識させ
てしまう音作りは、私の技術ブックにはない。ようするに「ヘン」なんだ。
 どの方法もただテクノロジーに振り回されているようにしか思えなかった。
何でわざわざ不自然にして聴かなければいけないのか。映像と結びついて意味の
ある技術ならそれだけでいいのではないか、そんな事を考えながら聴いていた。
 そんなことと同時に、この装置の音はこれでいいのかな、と、土台のところに
疑問を感じていた。
 ここでも一般には手の届かない高級装置と、ディジタルのハイスペックな数字
に、そのギャップを感じずにはいられなかった。
 「最後に聴いてもらいたいのがあります」といって掛かったのが、なんと私の
録音だった。だが、出てくる音を聴いていて何故か居心地がわるかった。自分の
録音だから客観的に聴けない、と謙遜しているのではない。やはりヘンだ。ただ
ただ私の神経をザラつかせていた。
 終わって「この伊豫部さんの録音が社内試聴会で一番評価が高いんです」だか
ら聴いてもらった、と言います。とりあえずその言葉は素直に受け止めさせても
らった。
 なんてこった。・・・解らない。・・・ますます解らない。大事な所を見失っ
ているとしか思えない。こういう音に誰も疑問に思わないのだろうか。物凄い勢
いで突き進んでいるのは何なんだ。アルミの弁当箱がプラスチックの弁当箱にな
っただけなのか・・・。
 基本的に30年前と何も変わっていないではないか。「・・まぁ・・なんでも
イイッか・・」キョウビ大事な姿勢かもしれない。


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